製造業の若手育成:成功への7つの秘訣の1つ目を解説
はじめに
近年では人材不足が深刻化しており、「採用する人を選べない」状況が常態化しています。
このような環境下で、我々はどんなことに取り組んでいけばよいのでしょうか?
今回から7回に分けて、製造業の若手育成に関する「成功への7つの秘訣」を紹介していきます。
若手社員がイキイキと働くことができる企業を創るきっかけとしていきましょう。
富士生涯教育大学校・人間共育学部
カイゼンベース株式会社 監査役
田辺純先生
1.なぜ、若手社員や次の管理者が育ちにくいのか?
あなたが中小企業の経営者・管理者であり、しかも製造業の分野で仕事をしているのであれば、「なぜ、若手社員や次の管理者が育ちにくいのか?」という質問に、何らかの回答を持っていますか?
まずは自社の実情を改めて捉えるために、簡単な自己診断をしてみましょう!
自己診断(自社の状況)
「こんな切実な悩みはありませんか?」該当するものが何個あるか数えてみましょう。
- 若手人材が不足している
- 年々従業員の平均年齢の高齢化が進む
- 若手社員になかなか技術を教えられない
- 中堅社員に次の管理者候補が育っていない
- 現在の管理者の中に次の経営者候補が育っていない
- 自分が高齢になっても経営を次に任せられない
いかがでしょうか?
この6つのお悩みは、中堅中小の製造業ならば、恐らく1つ以上は当てはまると思います。
それどころか、2~3つほど当てはまったのではないでしょうか?
そうなのです。残念ながら「我が国の製造業は構造的な危機(全てに亘る不具合さ)」を抱えています。
整理してみると、
- ベテラン職人から若手技術者への技能伝承が失敗している
- 製造業より高い賃金でサービス業が若手を募集している(製造業の不人気)
- 3K(キツイ・キタナイ・キケン)職場には高齢者しか見当たらない
- 作業するのが精いっぱいで管理者教育をする時間がない
- 管理者も職人として働くので経営を学ぶものがいない
- 70歳越えた経営者に後継者(親族跡継ぎ)がいない
ということに行き着きます。これに加えて、
「既存事業の売上が年々減少傾向にあり、それを補うような新規事業の売上はない。その上今後の先細りを考えると機械設備の更新も出来ないままでいる。」
よくよく考えてみると、この職場の実情で「若手社員を採用して、技能伝承して、次世代の管理者や経営者に育てる」には、少々無理がありませんか?
若手社員は、既にこのあなたの職場の未来に気付いているかもしれません。
「あと数年このまま手をこまねいていては、既存事業がどんどん先細り、やがて倒産の危機になるかもしれない」と言う危機感です。
そうです。あなたが20代の若手技術者だとして、この会社・この職場に自分の「未来30年」を託せるでしょうか?
答えははっきりしていますよね。「NO」なのです。
たとえ話をしましょう。暗室で種と水を播きながら、大した光を当てずにいるとどうなると思いますか?「もやし」になりますよね。
種=若手人材 水=給料 光=会社の未来構想(経営者の目指すもの)
そうです。あなたの会社・あなたの職場には「もやし職人」や「もやし社員」「もやし管理者」しか育たないのです。いくら給料を遅れることなく支払ったとしても、未来が見えないのです。
何も難しい「経営ビジョン」や「経営3か年計画」を立案する事を言っているのではありません。
光として欲しいのは「未来の希望」と「道を開く勇気」です。経営者であるあなたが「希望を語り、何としても新しい道を切り開く」と言う生き方をしていれば、若手社員は光を浴びて育ちます。
試しに簡単な『自己診断』をしてみましょう。
自己診断(自分の行動)
- 若手社員と最近10分間以上直に話している
- いつも若手社員の働きぶりを気に掛けている
- ベテラン社員に最近10分以上話を聴いている
- 管理者候補を自分としては決めて意識している
- 次の経営者候補を自分としては決めて意識している
- 経営を次に任せる準備として何かを権限委譲している
どれも当てはまらないならば、その責任はあなたにあるのです。
2.なぜ、現場で先輩を見て学ぶ方法には限界があるのか?
自分や今の管理者は、全員が「徒弟制度(親方と弟子の関係)」で長時間労働を長期間にわたって続けてきて、やっと10年・20年で一人前の技術者になってきたのだと思います。
しかも「親方からは教えてもらえずに、技術を見て盗め」と言われた世代ですよね。当時は「作業手順書」や「操作マニュアル」等はなく、失敗をしながら体で習得する方法をやってきました。
ですから50代以上のベテランや管理者は「そもそも現代の若手社員の育成方法」を知りません。しかも知る気もない人が多いのかもしれません。そして「現場で先輩のやっているのを見て学べ」と言う自分たちの方法をやっているのです。
ではそこで質問です。
・若手社員は、あなたの若いころのように長時間労働(残業毎日4時間以上)していますか?
・若手社員は、一人前になるまで3年とか5年とかの長期間をイメージして現場にいますか?
もちろん中には変わり者もいるでしょうが、大半はそうではないはずです。
それに気が付かなかった「日本の造船業」は、2000年頃にほとんどの専門技術を失ってしまいました。
ハングリー精神にみちた中国や韓国や東南アジアの若手技術者が継承して、若手日本人は継承する事が出来なかったのです。
造船業ばかりではなく、コピー機の技術も、ソフトウェアの開発も、私の元職場である富士ゼロックスと言う製造業の現場でも同じことが起きていました。
技術分野の管理や取りまとめは、高給取りの若手日本人。
製造現場やソフトウェアの実務現場は、若手外国人。
2015年頃を境に、日本人だけではもう製造する事が不可能になってきたのです。
難しい言葉ですが、「技術流出」です。もはや日本人で若手に技術を教える事ができる日本人も60代になっています(私は61歳です)。
これは教え方の問題ですか?違いますよね。
最初は、「教える側の意識と教わる側の意識のズレ」が原因なのです。
しかも、このズレが10年以上継続しているのでもう「相互に信頼できない」関係性になり掛けていると言ってよいでしょう。
3.「もやし社員」や「もやし管理者」を元気にする方法
ここまでの説明で、もう分かりましたよね。
相互信頼感が無い関係性の中では「若手社員は育ちません。」「次の管理者も育ちません。」まして「次の経営者も育ちません。」
職場に巣くっている「不信感」や「軽蔑感」を取り除き、経営環境をより良くするしか「解決の方向性」は無いのです。
思い起こしましょう。「もやし社員」と「もやし管理者」には「光(未来の希望と道開く勇気)」が注がないといけません。
光を注ぐ1つの切り口として、「太陽流経営法」をご存知ですか?
太陽流経営法とは
- 太陽流は、社員の自発能動を促す(強制はしない)
- 太陽流は、「ワイワイガヤガヤ(話し合う)」を基本にする(ワイガヤ)
- 太陽流は、経営コンサルタントが若手社員と面談を繰り返す(個別面談)
- 太陽流は、若手に「強み」を与えて「可能性(夢)」の実現を目指させる
- 太陽流は、3年間で職場を変える(業績V字回復の目に見える成果)
これらは、「もやし社員」や「もやし管理者」を元気にする方法なのです。それでは、次世代人材・選抜教育はどのように選んだらよいのでしょうか。
次世代人材・選抜教育の選び方
- 人柄・人間性を最優先にする
- 学歴や能力より危機意識(これからどうするか?)がある
- 男女の差はない(女性技術者の方がはるかに早く成長実績が多い)
- 新規事業への関心がある(アイデアやひらめきがある)
- 前向きで何事も良いところを見ようとする
そして一番のコツは、中心者(あなた)との相性が良い。
つまり3年間くらいは、継続して中心者との関係を持続できることが選び方のコツとなります。
もちろん3年間も育成すれば見違えるほどに成長します。
「そんな素晴らしい若手社員はうちにはいない」と嘆くよりは、何人かの候補を面談してみることから始めてみましょう。
4.本ページのポイントまとめ
本ページでは下記のポイントについて紹介しました。
- 自己診断(自社の状況)
- 自己診断(自分の行動)
- 太陽流経営法
- 次世代人材・選抜教育の選び方
4つの智慧を教訓としてお伝えしました。これからの時代は大きく変革が求められる時代です。もたもたしていると若手社員はどんどん離れていってしまいます。今からまずは第一歩を踏み出しましょう!
第1回のコラムは以上となります。第2回のコラムでは、製造業の若手育成に関する成功への7つの秘訣の2つ目「役割の明確化と能力開発の体系化」について紹介していきます。
本気で若手社員を活かすための企業改革をお手伝いします!
若手社員や次世代管理者の育成のためには、社内の風土改革はもちろん、人事制度改革も含めて検討していかなければなりません。しかし、経営者・幹部だけでは過去のしがらみやベテラン社員への必要以上の忖度が働いてしまい、上手く進められないことも多いのが実情です。
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カイゼンベース株式会社 監査役
合同会社FLEC 代表取締役
田辺 純
コンサルタント歴26年!未来の希望と未知開く勇気を全てのクライアントから引き出すことを誓約している組織開発コンサルタント。新入社員教育、一般&中堅社員教育、管理者教育、部門長教育のプログラムのオリジナル開発、新規事業構想や次期技術幹部の養成、人事制度改革や営業&マーケティング改革、技術経営~ビジネスプロセスリエンジニアリング等、360度広角の圧倒的に広い専門領域を持つ唯一無二の存在。
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代表取締役 藤澤 俊明
東京理科大学大学院修了後、トヨタ自動車(株)では生産技術部門で新規生産ライン構築や海外工場立上げ等に従事。その後製造系大手コンサルティングファームを経て独立。自動車部品工場、組立工場、鋳造工場、食品、化学プラント等、幅広くコンサルティング実績を積み重ねている。2015年にカイゼンベース株式会社を設立し、人材教育等の現場力・カイゼンの発展に向けて活動している。
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